[NIE全国大会福井大会]新聞で考える人に 全国大会特集

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 新聞を活用し考える人に―。第17回NIE全国大会が7月30、31の両日、福井市内で開かれ、県内の教育関係者13人を含む過去最多の1780人が参加した。パネルディスカッションや公開授業を通じ、新聞を教育に活用する方策や学習効果などについて考えた。

★基調提案

指導計画示し教諭支援 

寺尾健夫氏(福井県NIE推進協議会会長、福井大学教授)

寺尾健夫氏

 NIEとは、新聞を教材として、子どもの一定の能力を育成するための「意図的・計画的な教育活動」であり、どの教科でも行うことができる。一定の能力とは「興味・ 関心」「読解力」「問題発見力」「意思決定・価値判断力」「社会提案力」など。これらの能力は社会を生きる上で重要であり、NIEはその能力を育成する上で高い効果と大きな可能性を持つ。
 NIEの意義を教師に理解してもらうため、指導計画を示すことが必要。アプローチとして、小中高校の発達に応じ、どのような能力をどのような道筋で学習するかを示した「NIE学びのステップアップ表」(下図)を作成、さらに国語や社会などの教科と同様に「NIEのカリキュラム」を作れば、「どう指導したらいいか分からない」という教師は助かるはずだ。
 だが現在、NIEは独立した教科として学校教育に取り入れられる状況になく、各教科や総合的学習で分散して指導せざるを得ない。それでも全体として、体系的カリキュラムの形で行うことが大切。そうしてはじめて意図的計画的に一定の能力が育成できる。
 具体的には、小中高の12年間で「新聞に親しむ」「新聞を読む・知る」「読んで考える」「自分の意見を持ち、発信」「意見の違いを知り、発信」「社会とつながる」の6段階でステップアップさせる。その基礎にあるのは「考える人」となる能力を伸ばすことだ。
 情報を受信し、思考判断し、発信する能力。新聞活用ではさらに、読解力を育てる効果も期待される。NIEを手掛かりに、自律した「考える人」となる子どもを育てていく必要がある。

★パネルディスカッション

情報発信型へ発展
道関直哉氏(勝山市立勝山北部中学校教諭)

道関直哉氏

 NIE実践校として「NIEタイム」を設定し、朝読み新聞を続けてきた。朝の学習時間に新聞を読んで「考える」習性を身につける。気になる記事はスクラップし感想を言い合う。家に帰って話すことでファミリーフォーカスにもなる。
 「ハッピーニュース・スピーチコンテスト」や昼食時間のコラム朗読も実施。コラムの感想が寄せられるなど、反応も出てきたが、次第に感想が「偉いなと思った」「すごいなと感じた」などの受信型に終始した。そこで「発信するNIE」にしようと考えた。
 「社会の窓」ともいわれる新聞から課題を見つけ、考え判断し、提言することで社会を良くする動きにつなげた。江戸時代のマナーやしぐさを伝える記事を読み、校内でマナー向上を呼び掛ける運動を実施。地域の新聞に紹介されたことで、生徒の意識は高まった。
 また30年近く続いている九頭竜(くずりゅう)川のごみ拾いに「30年もなくならないことがおかしい」と気づき、どこから来るのかを調査。肥料袋など農業系ごみが多いことが分かり、農家の方々にごみを減らす協力を依頼。わずかな動きが新聞で紹介されて大きな動きとなり、子どもたちの誇りになった。
 「発信するNIE」の実践に重要なことは「環境づくり」「課題を見つけ、考え、発信する気持ち」「発信する場」だと考える。

親子で討議し成長
後藤ひろみ氏(女性起業家交流会「ふくむすび会」顧問)

後藤ひろみ氏

 新聞を読み流す程度だった息子が変わったのは、中2の冬休み。気になる記事を読んでコラムを書くという社会科の宿題をきっかけに、親子で話すようになった。毎朝、新聞を広げ「今日の新聞さんは何て言っている?」と。地元のささいなことなども話しながら、送り出す。仕事と家庭を両立させれば、うかうかして いると子どもと話す時間はなくなる。宿題を出してくれた先生がNIEに熱心だったことで親子の会話が増えた。感謝している。
 だが最近のいじめ報道など、リアルな情報も多い。息子はテレビ画面から目をそむけ「僕は見ない。怖い」と言っていた。だが朝日新聞の「いじめられている 君へ」というメッセージ記事を読み「つらかったんだろな」「自分は何ができるかな」と考え始めた。リアル過ぎる事件も、記事で読むことで自分のこととして 考えるようになった。
 同じ記事でも親子で視点や意見が違い、子どもの自己主張を成長と感じられる。一方で、何げない質問に答えられないこともあったりで、親も成長しないといけない。学校任せにせず親も一緒に関わりたい。
 新聞社が違えば記事の内容や印象も違う。だが物事には賛否があり、いろんな考え方があっていいと伝えてほしい。ポリシーを持ち、顔の見える、個性を持った新聞であってほしい。

週1回15分で効果
関口修司氏(東京都NIE推進協議会副会長)

関口修司氏

 公開授業の研究会や月例研究会などを開いてNIEの実践者を増やそうとしている。またNIEで幼小中の一貫教育に取り組んでいる。東京都北区の小中50校すべてにNIE担当の教員がおり、新聞スクラップや新聞制作、研究授業を行い浸透を図っている。
 7~8年携わって一番成果があったのはNIEタイムだった。週1回15分だけ朝学習の時間に新聞スクラップを中心に行っている。日常的に新聞に触れる機会をつくることが必要だ。少しずつでもいいから学校全体でやると効果が上がる。
 文章・写真・グラフ・図がある非連続型テキストを読み解く総合的な読解力が求められている。つまり新聞を読む力が必要になる時代だ。そういう意味で新聞スクラップは大切。
 小学校低学年は新聞とつながる、中学年は新聞を通して友達とつながる、高学年は新聞を通して社会とつながると発達段階に応じて進めている。
 今起こっていることを話題にすることで、人ごとでなく自分のこととして捉えることができる。そういう意味でリアリティーのあるNIEの効果は大きい。いじめの解決にも活躍するのではないかと思う。
 週1回15分、新聞に触れることで学校が変わり、子どもの能力が確実に育つ。ぜひ学校全体でやってほしい。

★公開授業 健康・恐竜・社会参加…多彩な取り組み 

読んで書いて食育 長畝小学校

食と健康について学び、新聞を作った長畝小6年2組=7月30日、福井市・フェニックスプラザ

 県の「食育実践校」指定を機に食や健康の大切さを学習した長畝(のうね)小学校。「健康」に関するイメージマップで意識を高め、食料自給率やカロリー、 栄養など関連する新聞記事を読み込んだ。養護教諭や栄養教諭にもインタビューし、気づいた課題や問題点を調べ「ゴミロス新聞」「フード&スポーツタイム ズ」「カロリー新聞」など6テーマで新聞を作った。
 互いの新聞を読み、発表を聞いた児童らは「捨てていた果物の皮に栄養があることは知らなかった」「運動は大切。夏休みでだらけていたけど頑張る」など感想を述べ合った。
 北倉敦子教諭は「『伝える』を目標としたが記事集めも難しく、栄養教諭にも助けてもらった」と振り返った。助言者の伊藤雄一毎日新聞福井支局長は「インターネットの情報は玉石混交。出典を書き込むクセをつけて」とアドバイスした。

県構想に独自提言 勝山北部中学校

恐竜ランドの記事を基に町づくりを企画し提案した勝山北部中の3年生=7月30日、福井市・フェニックスプラザ

 新聞を読んで課題を見つけ、発信することを続けてきた勝山北部中学校は、恐竜発掘現場を博物館にするという県の「恐竜キッズランド構想」を伝える記事を基に「環境」「暮らし」「観光」の視点で討論。博物館一帯を「ダイノスクエア」と位置付けて、それぞれのアイデアや企画を発表した。
 環境チームは「マイカーを規制し、周遊バスを運行。河川敷を整備し公園に」。暮らしチームは「市の中心地に大型モールを再開発。恐竜合コンを企画し少子 化対策!」のアイデア。観光チームは「恐竜モニュメントを回る恐竜ロードを整備し、地域通貨を設定する」との企画を語った。
 話し合いでは「トイレやごみ箱も多い方がいい」「ラジオやブログで情報発信」などの意見も。公開授業を聞いていた市の担当者は「未来を担う皆さんが地域を考えてくれるのはありがたい。提言書を持って来てほしい」と歓迎した。

多様さ尊重し討論 福井農林高校

よりよい社会をつくるための課題を見つける取り組みを行った高校生と指導に当たった小林充教諭(中央)=福井市の福井農林高

 一人一人が新聞から見つけた社会的な課題について、互いに意見交換した福井農林高校。よりよい人間のあり方・生き方について考えた。
 3~4人のグループに分かれ、それぞれが選んだ課題に優先順位を付けた。1位に選んだ記事について活発に意見交換し「重要な課題」「どのような社会をめざすのか」などを書き込み、意見発表を行った。
 「愛知母娘刺され死亡」を選んだグループは3組。設定した課題は「事件をなくすにはどうしたらいいか」「一人一人が命の大切さを理解するにはどうしたら いいか」「命を奪う事件を減らすにはどうしたらいいか」と分かれたが、目指す社会のあり方は「安心・安全」を重視する点で共通していた。
 指導に当たった小林充教諭は「多様な価値観を認め合いながら、いい社会をつくろうとする姿勢を育てたい」と話した。

★沖縄から参加教諭コメント

保護者とともに実践

 安里禮子・中原小校長 パネルディスカッションで「新聞を深く読むきっかけづくりは教師、根付かせるのは家庭の役割」とお母さんの立場から言われたのが印象的だった。本校は保護者の力が大きいのでともにNIEに取り組んでいきたい。

活用法の豊富さ見た

 仲松久弥・中原小教諭 新聞活用のバリエーションが豊富だった。漢字を勉強する場合にも、学習ドリルや本を使うより、新聞の方が日常的に漢字に触れられて有効だと思うし、子どもは楽しめるはず。夏休み明けから早速、継続して取り組んでいきたい。

全国の事例学び刺激

 山城銀子・小禄南小校長 全国の取り組みを学び刺激を受けた。全校で取り組むことの大切さを再確認した。新聞を単元目標に迫るための道具として活用していく。基盤はできているので、ここで得たヒントを生かし、さらに活動を充実させていきたい。

活動に手応え感じた

 奥間ナリ子・小禄南小教諭 カリキュラム化や日常化など、これまでの2年間の活動と重なることが多くて手応えを得た。継続的に取り組んで子どもの力を伸ばしていくため、もっと新聞と教科をつなげていく新聞活用の手だてを考えていきたい。

次段階へヒント得た

 大城綾乃・小禄南小教諭 新聞を素材とし、まずは新聞に親しむという入り口の部分を主にやってきた。全国大会に参加してさらにNIEを発展させるヒントをもらえた。思考力、判断力、表現力の育成を目指した実践発表に刺激を受けた。日常的に続けたい。

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